「CUDAの牙城は崩せるのか?」 ── GPUコンピューティングに関わるエンジニアなら一度は考えたことがあるはずの問いに、AMDが真正面から取り組んでいる。EE Timesに掲載されたこの記事は、AMDのROCm(Radeon Open Compute)がNVIDIAのCUDAエコシステムにどう立ち向かっているか、その地道な進歩の実態を伝えている。Hacker Newsでも146ポイント・108コメントを集め、開発者コミュニティの高い関心を示している。
CUDAの「壁」とROCmの立ち位置
NVIDIAのCUDAは2006年から約20年をかけて積み上げたエコシステムを持つ。PyTorch・TensorFlow・cuDNN・NCCL──主要なMLフレームワークのほぼすべてがCUDAを前提に最適化されており、これが事実上のロックインを生んでいる。
AMDのROCmはこの状況に対し、主に以下のアプローチで対抗している:
- HIP(Heterogeneous-computing Interface for Portability): CUDAコードをほぼそのままAMD GPUで動かせる変換レイヤー。
hipify-perl/hipify-clangツールで既存CUDAコードを自動変換 - rocBLAS / MIOpen / rocFFT: CUBLASやcuDNNに対応するAMD独自ライブラリ群
- PyTorch / ROCmバックエンド: PyTorch 2.x以降でROCmサポートが本格化。
pip install torch --index-url https://download.pytorch.org/whl/rocm6.1で導入可能
# ROCm対応PyTorchのインストール例(ROCm 6.1対応)
pip install torch torchvision torchaudio \
--index-url https://download.pytorch.org/whl/rocm6.1
# GPU確認
python -c "import torch; print(torch.cuda.is_available())" # HIP経由でTrueになる
python -c "import torch; print(torch.version.hip)"
「一歩ずつ」── 現実の進捗と課題
記事タイトルの ‘One Step After Another’ という表現が示すように、ROCmの進化は劇的な逆転劇ではなく、着実な積み上げだ。特に注目すべき点として:
- AMD Instinct MI300X はHBM3メモリ192GBを搭載し、メモリ帯域幅でH100を上回る場面もある
- ROCm 6.x系でDockerイメージの安定性が大幅改善。
rocm/pytorch公式イメージが使いやすくなった - ただしカーネルフュージョン・コンパイラ最適化の面ではまだNVIDIAのtriton/cuBLASに遅れがある
- エコシステムの断片化(ドライババージョン・Linuxカーネル依存)が依然として導入障壁
HNのコメント欄では「実際にROCmを本番で使っている」という声も増えており、特にコスト意識の高いクラウド事業者やオンプレML基盤での採用事例が議論されている。
実際に試してみたい人へ
ROCmをローカルで試す最も手軽な方法はDockerだ:
# ROCm公式Dockerイメージで起動
docker run -it --device=/dev/kfd --device=/dev/dri \
--group-add video --group-add render \
rocm/pytorch:latest bash
# 動作確認
rocm-smi # GPU状態確認
hipinfo # デバイス詳細
対応GPUはRDNA 2以降(RX 6000番台〜)とInstinctシリーズ。ROCm 6.1時点でのサポートリストは公式ドキュメントで確認を。Ubuntuは22.04 LTSが最も安定して動作する。
まとめ・所感
ROCmはもはや「CUDAの粗削りな代替」ではなく、真剣に検討に値する選択肢になりつつある。特にAMD MI300Xのメモリ優位性はLLM推論用途で注目されており、CUDAコード資産をHIPで移植するコストも年々下がっている。
「一歩ずつ」というのは弱さの表現ではなく、20年分のエコシステムに対して現実的に戦う姿勢だと私は読んだ。元記事(EE Times)はハードウェア・産業寄りの視点から詳細を論じており、GPU選定・移行を検討しているエンジニアに強くお勧めしたい。